コラム

溶融亜鉛めっきとは? -鉄の長寿命化を実現する防錆処理-

1.     溶融亜鉛めっきの概要

自然界の法則として鉄には「錆びる」という宿命的な弱点があります。溶融亜鉛めっきはこの弱点を克服するために1742年に フランスの科学者P.J. Malouinによって生み出されました。そして1836年に同じくフランスの技術者Stanislaus TranquilleModeste Sorelが初期の溶融亜鉛めっきプロセスの特許を取得しました。そこから溶融亜鉛めっきは工業として本格化していき、鉄をさびから守るための最も効果的な表面処理の一つとなりました。

当初は腐食防止の手段としてのみ考えられていましたが、現在では溶融亜鉛めっきは耐久性、長寿命、持続可能性、入手のしやすさなど、様々な理由で求められています。

建設業界から日用品に至るまで、幅広い分野で利用されるこの表面処理について詳しく解説します。

2.     溶融亜鉛めっきとは?

溶融亜鉛めっき(Hot-Dip Galvanizing)とは、鋼材を液体状になった高温の亜鉛浴に浸し、鋼材表面に亜鉛の皮膜を形成する処理方法です。この亜鉛の皮膜が鋼材を空気中の酸素や水分から遮断することで、鋼材の腐食を防ぎ、防錆効果をもたらします。

さらに形成された亜鉛の皮膜は鋼材と優れた密着性をもつため、剥がれにくい特性を持ちます。この特性により、長期間にわたって安定した防錆効果が得られます。

3.     溶融亜鉛めっきした製品はどのくらいもつの?

亜鉛皮膜の防錆効果はどのくらいもつのかというと、基本的には亜鉛皮膜の厚さに比例します。さらに使用環境によって腐食速度に違いがあるため使用環境ごとでも耐用年数は変わっていきます。

過去に日本溶融亜鉛鍍金協会が実施した大気暴露試験結果のデータを下表にまとめます。

この表における耐用年数は亜鉛付着量が550g/㎡(HDZT 77)の場合に、めっき皮膜の90%が消耗するまでの期間を計算したものです。

暴露試験地域平均腐食速度
(g/m2/年)
平均腐食速度
(μm/年)
耐用年数
(年)
都市工業地帯8.01.162
田園地帯4.40.6113
海岸地帯19.62.725
使用環境別亜鉛腐食速度(参照:JIS H 8641:2021 溶融亜鉛めっき)

この使用環境別の平均腐食速度(μm/年)をベースに亜鉛皮膜の膜厚の変化による耐用年数をわかりやすくグラフ化してみます。

溶融亜鉛めっきの使用環境別耐用年数表

上のグラフからもわかるように田園地帯では100年という耐用年数も不可能ではありません。しかもその間はメンテナンスの必要がほとんどなく、ほぼメンテナンスフリーです。田園地帯より腐食要素が強い都市工業地帯、海岸地帯でも平均すると何十年にもわたって防錆効果を維持することができます。

4.     溶融亜鉛めっきの特徴

なぜ亜鉛の皮膜が数十年単位の長期にわたって防錆効果を維持できるかというと、亜鉛という金属の特性による「保護被膜作用」と「犠牲防食作用」という2つの作用があります。

【保護被膜作用】

鋼材のさびを防ぐ「保護皮膜作用」は、亜鉛めっきの表面に亜鉛の緻密な酸化皮膜が形成され、この酸化皮膜のバリア効果により純亜鉛層、合金層、鉄素地を空気や水から守ることでさびを生じにくくさせる作用です。

【犠牲防食作用】

亜鉛皮膜が欠損して鉄素地が露出したとしても、イオン化傾向の差によって欠損した周囲の亜鉛が鉄より先に溶け出して、電気化学的に保護することで鉄をさびから守ります。

5.     溶融亜鉛めっきの加工プロセス

溶融亜鉛めっきは、基本的に以下の加工プロセスで行われます。

脱脂製品を脱脂槽に漬けて、表面の油脂を除去します。
水洗表面の脱脂液をすすぎます。
酸洗製品を酸洗槽に漬けて、表面のさび、黒皮を除去します。
水洗表面の酸液をすすぎます。
フラックス処理製品をフラックス槽に漬けて、表面を清浄な状態で維持し、めっき処理までのさびを防ぐ一時的な防錆処理をします。
乾燥表面のフラックス液を乾燥させます。
めっき製品を溶融亜鉛浴に漬けて、めっき皮膜を形成します。
冷却合金反応を止め、めっき皮膜を安定させます。
溶融亜鉛めっきの加工プロセス

6.     溶融亜鉛めっきのメリット

  • 優れた防錆効果
    • 溶融亜鉛めっきした鋼材は亜鉛の保護被膜作用による緻密な酸化被膜によって、酸化や腐食から保護されます。さらに犠牲防食作用によって、もし亜鉛皮膜が欠損して鉄素地が露出したとしても、亜鉛が先に腐食して鋼材を守ります。この保護被膜作用と犠牲防食作用によって優れた防錆効果を発揮します。
  • 長寿命
    • 亜鉛の皮膜は鋼材と強固に結びつくため、剥がれにくい特性をもっています。亜鉛の優れた防錆効果と剥がれにくい特性が長期間にわたって安定した防錆効果を維持します。
  • メンテナンス頻度の低減
    • 溶融亜鉛めっきされた鋼材は数十年にわたって防錆効果が維持できるため、メンテナンスの頻度が大幅に減らすことができます。今後、労働人口の減少が見込まれる状況においてメンテナンス頻度を減らせる、メンテナンス周期を延ばすことができるのは重要な要素となります。

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